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目次
1. なぜ「運動」が認知症予防の切り札なのか
2. 脳に効く有酸素運動のポイント
3. 筋トレも脳を守る ― 週2回のレジスタンス運動
4. 「デュアルタスク」で運動と脳トレを同時に
5. 自宅でできるコグニサイズメニュー
6. 続けるための3つの工夫
7. まとめ ― 体を動かすことが、脳を守ること
なぜ「運動」が認知症予防の切り札なのか
これまでの記事で、認知症予防に「運動」が大切だとお伝えしてきました。この最終回では、「何を、どれくらい、どうやるか」をより具体的に解説します。
運動が脳に良い理由を、改めて整理しましょう。
まず、脳の血流が増加します。運動をすると心拍数が上がり、脳に送られる血液の量が増えます。その結果、酸素と栄養が豊富に届き、神経細胞が元気を保てます。
次に、脳の成長因子(BDNF)が増えます。BDNFは「脳の肥料」とも呼ばれ、新しい神経回路の形成を助けます。運動後にはBDNFの血中濃度が上がることがわかっています。
さらに、海馬の萎縮を防ぎます。記憶をつかさどる海馬は、加齢とともに毎年約1〜2%ずつ萎縮しますが、定期的な有酸素運動がこの萎縮を遅らせ、場合によっては海馬の体積を増やすことが報告されています。
そして、炎症を抑えます。慢性的な炎症は認知症の進行に関わるとされていますが、適度な運動には抗炎症作用があります。
脳に効く有酸素運動のポイント
有酸素運動とは、酸素を使いながら長時間続けられる運動のことです。代表的なものにウォーキング、ジョギング、サイクリング、水泳、ダンスなどがあります。
認知症予防のための有酸素運動の目安について説明します。頻度は週3〜5回。1回あたり30分以上(10分×3回に分けてもOK)。強さは「ややきつい」と感じる程度で、息は弾むけれど会話ができるレベルです。週の合計として150分以上を目指しましょう。
特におすすめなのが「速歩きウォーキング」です。普段の歩行よりも大股で、腕をしっかり振って、やや速いペースで歩きます。これだけで十分な有酸素運動になります。
歩くときに意識したいポイントとして、背筋を伸ばしてまっすぐ前を見ること。かかとから着地してつま先で蹴り出すこと。腕は90度に曲げて前後に振ること。そしてできれば公園や自然の中を歩くと、気分転換の効果も加わります。
筋トレも脳を守る ― 週2回のレジスタンス運動
有酸素運動に注目が集まりがちですが、近年は筋力トレーニング(レジスタンス運動)も認知機能の維持に効果があることがわかってきました。
2020年に発表されたメタ解析(複数の研究をまとめて分析した研究)では、週2回以上の筋トレが認知機能の改善に関連していたと報告されています。
自宅でできる簡単な筋トレメニューを紹介します。
スクワット ― 足を肩幅に開き、椅子に座るイメージでお尻を後ろに引きながら膝を曲げます。膝がつま先より前に出ないように注意。10回×2セット。
かかと上げ(カーフレイズ) ― 壁に手をついて立ち、両足のかかとをゆっくり上げ下げします。ふくらはぎは「第二の心臓」と呼ばれ、血流改善に効果的です。15回×2セット。
椅子からの立ち座り ― 椅子に座った状態から、手を使わずに立ち上がり、ゆっくり座ります。太ももの筋肉を鍛えるとともに、転倒予防にもなります。10回×2セット。
「デュアルタスク」で運動と脳トレを同時に

近年、認知症予防で最も注目されている運動法のひとつが「デュアルタスク運動」です。これは、体を動かしながら同時に頭を使う「二重課題」のこと。
なぜデュアルタスクが効果的なのかというと、運動で脳への血流を増やしつつ、認知課題で前頭前野(判断力・注意力を担う部分)を刺激するため、脳全体を効率的にトレーニングできるのです。
国立長寿医療研究センターが開発した「コグニサイズ」は、このデュアルタスクの考え方をベースにした認知症予防の運動プログラムです。
自宅でできるコグニサイズメニュー
難しい道具は必要ありません。自宅のリビングで今日から始められるメニューを紹介します。
メニュー1:足踏み+しりとり ― その場で足踏みをしながら、しりとりをします。一人で行う場合は、テーマを決めて(例:食べ物の名前、動物の名前)言葉を考えながら足踏みを続けます。
メニュー2:ステップ+計算 ― 右、左、右、左とステップを踏みながら、3の倍数のときだけ手を叩きます(3、6、9、12……)。最初はゆっくりで構いません。慣れたら5の倍数や7の倍数に変えると難易度が上がります。
メニュー3:ウォーキング+引き算 ― 散歩中に「100から7を引き続ける」計算をしながら歩きます(100、93、86、79……)。つまずいても気にせず、間違えたところからやり直せばOKです。
メニュー4:スクワット+言葉さがし ― スクワットをしながら、「あ」から始まる言葉、「い」から始まる言葉……と五十音順に言葉を言っていきます。
ポイントは、「少し難しいけど、頑張ればできる」レベルに調整すること。簡単すぎると脳への刺激が弱く、難しすぎると続きません。
続けるための3つの工夫

運動も脳トレも、一番大切なのは「続けること」です。三日坊主にならないためのコツを紹介します。
工夫1:時間を決めて習慣化する ― 「朝食後に15分歩く」「夕食前にスクワットとコグニサイズ」など、すでにある習慣にくっつけると定着しやすくなります。
工夫2:仲間をつくる ― 一人で続けるのが難しければ、ご夫婦や友人と一緒に行いましょう。地域の体操教室やウォーキングクラブに参加するのもおすすめです。人と一緒に行うことで、運動と社会参加の両方の効果が得られます。
工夫3:記録をつける ― 歩数や運動時間を記録すると、達成感が生まれてモチベーションが続きます。スマートフォンの歩数計アプリや、シンプルなカレンダーに丸をつけるだけでも十分です。
まとめ ― 体を動かすことが、脳を守ること
認知症予防において、運動は最も科学的根拠の強い「処方箋」です。
この記事のポイントをおさらいします。有酸素運動は週150分以上を目指すこと。筋トレは週2回以上が効果的であること。デュアルタスク運動(コグニサイズ)は脳と体を同時に鍛えられること。そして「続けること」が何より大切で、無理のない方法で習慣化することです。
この認知症シリーズ5本を通して、基礎知識から予防法、家族の対応、運動・脳トレまで幅広くお伝えしてきました。すべてを一度に実践する必要はありません。「今日、ひとつだけやってみよう」。その小さな一歩が、10年後、20年後のあなたの脳を守ります。
よくある質問
Q1. 膝や腰が痛くて運動ができません。それでもできることはありますか?
回答: もちろんあります。痛みがある場合は、水中ウォーキングや椅子に座ったままできる体操がおすすめです。水中では浮力で関節への負担が減りますし、座位での上半身の運動や足踏みでも有酸素効果は得られます。デュアルタスクも座ったまま行えます。まずは整形外科で痛みの原因を確認し、主治医と相談しながら自分に合った運動を見つけましょう。
Q2. コグニサイズは何歳から始めるべきですか?
回答: 年齢制限はありません。30代・40代から始めれば、脳の「認知予備力」を貯金する意味で効果的です。もちろん60代・70代から始めても遅すぎるということはなく、研究では高齢者でも認知機能の改善が報告されています。大切なのは「いつ始めるか」よりも「続けるかどうか」です。
Q3. 毎日30分の運動が難しいのですが、短い時間でも効果はありますか?
回答: はい、10分の運動を1日3回行っても、30分連続で行った場合と同等の効果が得られるとされています。通勤途中に一駅歩く、昼休みに階段を上り下りする、テレビのCM中にスクワットをする ― こうした「こま切れ運動」の積み重ねでも、脳への恩恵は十分に得られます。
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監修:Dr.T
参考文献:
1. Erickson KI, et al. “Exercise training increases size of hippocampus and improves memory.” PNAS. 2011.
2. 国立長寿医療研究センター「コグニサイズ実施マニュアル」
3. Northey JM, et al. “Exercise interventions for cognitive function in adults older than 50.” Br J Sports Med. 2018.
4. Livingston G, et al. “Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission.” Lancet. 2024.



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