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目次
- 高齢者と水分の関係──体の中の水が減っていく
- なぜ高齢者は脱水になりやすいのか
- 脱水の兆候と見分け方
- 日常でできる水分補給のコツ
- 季節ごとの注意ポイント
- こんなときは早めに受診を
- まとめ
- よくある質問
はじめに
「のどが渇いたら水を飲めばいい」──若い頃はそれで十分だったかもしれません。しかし年齢を重ねると、体が「渇き」を感じにくくなり、水分が足りていないことに気づけなくなります。
脱水は、夏の熱中症だけの問題ではありません。冬の暖房による乾燥、持病の薬の影響、食事量の低下など、一年を通じてリスクがあります。とくに高齢者は重症化しやすく、入院のきっかけになることも珍しくありません。
この記事では、ご自身やご家族の脱水を「未然に防ぐ」ための知識と、日常ですぐに実践できる水分補給のコツをお伝えします。
高齢者と水分の関係──体の中の水が減っていく
人間の体の約60%は水分でできている、とよくいわれます。しかしこの割合は年齢とともに変わります。
- 新生児: 約75%
- 成人: 約60%
- 高齢者: 約50%
加齢に伴い筋肉量が減少し、脂肪の割合が増えることが大きな原因です。筋肉は水分を多く含む組織ですが、脂肪組織は水分をあまり含みません。つまり、高齢者はもともと体内に蓄えている水分の「貯金」が少ない状態です。
この「貯金」が少ないということは、少しの水分不足でもバランスが崩れやすいことを意味します。若い方なら多少の水分不足を体が補える場面でも、高齢者では脱水に傾きやすくなるのです。
なぜ高齢者は脱水になりやすいのか
高齢者が脱水を起こしやすい理由は一つではありません。いくつもの要因が重なることで、リスクが高まります。
1. のどの渇きを感じにくくなる
加齢により、脳にある「口渇中枢(こうかつちゅうすう)」——のどの渇きを感じ取るセンサーの働きが鈍くなります。体が水分を必要としていても「のどが渇いた」と感じにくいため、自然に水を飲む量が減ってしまいます。研究によると、高齢者は軽度の脱水状態でも渇きを感じないことがあると報告されています。
2. 腎臓のはたらきの変化
腎臓は尿の量や濃さを調節して体内の水分バランスを保つ臓器です。加齢とともに腎臓の濃縮能(尿を濃くして水分を体に残す力)が低下し、薄い尿がたくさん出やすくなります。また、抗利尿ホルモン(バソプレシン)への反応性も低下するため、水分を保持する力が弱まります。
3. 薬の影響
高齢者は複数の薬を服用していることが多く、なかには体の水分を減らす作用を持つものがあります。
- 利尿薬: 心不全や高血圧の治療に使われ、尿の量を増やします
- 下剤: 便と一緒に水分が排出されます
- 一部の降圧薬やACE阻害薬: 腎臓の水分調節に影響することがあります
4. 食事量の減少
食べ物には意外と多くの水分が含まれています。味噌汁、果物、煮物など、和食は水分の多いメニューが豊富です。1日の総水分摂取量のうち食事由来は約20〜30%を占めるため、加齢に伴い食事量が減ると脱水リスクが高まります。
5. トイレの心配
「トイレが近くなるのが嫌で水分を控えている」という声は非常に多く聞かれます。頻尿や尿失禁の不安から、意識的に水分を制限してしまうケースです。
脱水の兆候と見分け方
脱水は本人が気づきにくいからこそ、周囲の方が兆候を知っておくことが大切です。以下のサインに注目してください。
軽度の脱水サイン
- 口の中が乾いている、唾液が粘っこい
- 尿の色が濃い(健康な尿はうすい黄色。濃い黄色やオレンジ色は水分不足のサイン)
- 尿の量が少ない、トイレの回数が減った
- なんとなくだるい、集中力が落ちた
- 軽いめまい、立ちくらみ
中等度〜重度の脱水サイン
- 皮膚のハリがなくなる(手の甲の皮膚をつまんで離すと、もとに戻るのに時間がかかる=ツルゴール低下)
- 血圧が下がる、脈が速くなる
- 意識がぼんやりする、受け答えがいつもと違う
- 発熱がある
- ほとんど尿が出ない
とくに高齢者では、脱水がせん妄(急に意識がぼんやりしたり混乱したりする状態)の原因になることがあります。「いつもと様子が違う」と感じたら、まず水分不足を疑ってみてください。
簡単チェック:手の甲テスト
手の甲の皮膚を軽くつまんで2秒ほど持ち上げ、パッと離します。すぐに元に戻れば問題ありませんが、戻るのに2秒以上かかる場合は脱水の可能性があります。ただし高齢者は皮膚の弾力自体が低下しているため、あくまで目安の一つとしてください。
日常でできる水分補給のコツ
「1日に2リットル飲みましょう」と聞くと大変そうに感じますが、工夫次第で無理なく水分を摂ることができます。
こまめに少量ずつ飲む
一度にたくさん飲むのではなく、1回コップ半分〜1杯(100〜200mL)を1〜2時間おきに飲むのが理想です。以下のようにタイミングを決めると習慣化しやすくなります。
- 起床時にコップ1杯
- 毎食時に汁物+お茶
- 10時・15時のおやつタイムに飲み物を添える
- 入浴の前後にコップ1杯ずつ
- 就寝前にコップ半分
食事から水分を摂る
汁物は水分補給の強い味方です。味噌汁1杯で約150〜200mLの水分が摂れます。そのほか:
- 果物: スイカ、みかん、ぶどう、りんごなどは水分が豊富
- 煮物・鍋物: 具材にも煮汁にも水分がたっぷり
- お粥・雑炊: 食欲がないときでも水分と栄養を同時に摂れる
- ゼリー・寒天: 飲み込みやすく、水分補給にも有効
飲みやすい工夫をする
「水は味がなくて飲みにくい」と感じる方には、以下の工夫が効果的です。
- 麦茶、ほうじ茶、番茶などカフェインが少ないお茶を常備する
- レモンやゆずを少し絞って風味をつける
- 常温や人肌に温めると飲みやすくなることも
目に見えるところに飲み物を置く
「そばにあれば飲む」というのは意外と大きな効果があります。リビングのテーブルやベッドサイドに水筒やペットボトルを置いておくだけで、飲む回数が自然に増えます。
水分摂取の目安
一般的に、高齢者の1日の水分摂取量は体重1kgあたり約30mLが目安とされています。体重60kgの方なら約1,800mLです。ただし、心不全や腎臓病で水分制限を受けている方は主治医の指示に従ってください。
季節ごとの注意ポイント
夏(6〜9月)
最も脱水リスクが高い季節です。高温多湿の環境では発汗により水分と電解質(ナトリウムなど)が失われます。
- エアコンを適切に使い、室温は28℃以下を目安に
- 汗をかいたときは水だけでなく、少量の塩分も一緒に補給する
- 外出は涼しい時間帯に。日中の屋外作業は避ける
冬(12〜2月)
「冬は汗をかかないから大丈夫」と思いがちですが、暖房による室内の乾燥で皮膚や呼吸から水分が失われます(不感蒸泄:ふかんじょうせつ)。
- 加湿器を活用し、室内の湿度を50〜60%に保つ
- 温かい飲み物をこまめに摂る
- 冬場も意識的に水分補給を心がける
春・秋
気温の変動が大きく、体調を崩しやすい季節です。発熱や下痢を伴う感染症にかかると、短時間で大量の水分を失います。体調不良時はとくに意識して水分を摂りましょう。
こんなときは早めに受診を
以下のような場合は、自宅での対処だけでは不十分な可能性があります。早めに医療機関を受診してください。
- 水分を摂っても改善しない強いだるさやめまいが続く
- 半日以上ほとんど尿が出ない
- 意識がぼんやりしている、つじつまの合わないことを言う
- 発熱、嘔吐、下痢が続いている
- 血圧が普段より大幅に低い
- 皮膚をつまんでも戻りが著しく遅い
とくに複数の持病がある方や、利尿薬を服用中の方は重症化しやすいため、「少しおかしいな」と思った段階で早めに相談することが大切です。
まとめ
高齢者の脱水は、のどの渇きを感じにくくなること、腎臓の機能変化、薬の影響、食事量の減少など、複数の要因が重なって起こります。自覚症状が出にくいぶん、「のどが渇く前に飲む」習慣がとても大切です。
- こまめに少量ずつ、1日を通して水分を摂る
- 食事からも水分を意識して摂る
- 季節を問わず一年中注意する
- 周囲の方も脱水の兆候を知っておく
「水を飲む」というシンプルな習慣が、健康寿命を延ばすための大きな一歩になります。
よくある質問
Q1. お茶やコーヒーは水分補給に含めてよいですか?
回答: お茶やコーヒーも水分補給に含めて大丈夫です。通常の量(1日2〜3杯程度)であれば、カフェインの利尿作用による水分損失は飲んだ量と比べてわずかです。ただし、カフェインの摂りすぎは睡眠に影響することがあるため、麦茶・ほうじ茶・水などをベースにするとよいでしょう。
Q2. 「経口補水液」は普段から飲んだほうがよいですか?
回答: 普段の水分補給には水やお茶で十分です。経口補水液は、下痢・嘔吐・大量の発汗など、体から水分と電解質が急激に失われたときに効果を発揮するものです。塩分と糖分が含まれていますので、健康な状態で日常的に飲み続けると塩分の摂りすぎにつながる可能性があります。「いざというときの備え」として自宅に常備しておくのはよい考えです。
Q3. 1日に何リットル飲めばよいですか?
回答: 個人差がありますが、目安は体重1kgあたり約30mLです。体重60kgの方なら約1.8リットル(食事からの水分を含む)になります。飲み水だけでいえば、1日1.0〜1.5リットル程度を目標にするとよいでしょう。ただし、心不全や腎臓病で水分制限を受けている方は、必ず主治医の指示を優先してください。
Q4. 高齢の親が水を飲みたがりません。どうすればよいですか?
回答: まずは「なぜ飲みたくないのか」を探ることが大切です。水が苦手なら風味のあるお茶を試す、トイレの心配があるなら日中に集中して飲むなど、原因に合わせて工夫しましょう。食事にスープや果物を増やす、ゼリーを間食にするなど「飲む」以外の方法も効果的です。
監修
監修医:Dr.T
参考文献
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- Stookey JD. High prevalence of plasma hypertonicity among community-dwelling older adults: results from NHANES III. J Am Diet Assoc. 2005;105(8):1231-9.
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- 日本老年医学会(編). 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン 2015.
- Volkert D, et al. ESPEN guideline on clinical nutrition and hydration in geriatrics. Clin Nutr. 2019;38(1):10-47.



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