その腰痛、実は”骨折”かも ― 見逃したくない高齢者の圧迫骨折サイン

整形外科

目次

  1. 高齢者の「急な腰痛」、まず疑うべきは圧迫骨折
  2. 気づかないうちに起きている”いつのまにか骨折”
  3. ぎっくり腰と圧迫骨折の決定的な違い
  4. 放っておくとどうなる? 圧迫骨折の恐い連鎖
  5. 病院でする検査と治療の流れ
  6. 家族・ご本人ができる再発予防
  7. まとめ
  8. よくある質問

シリーズ②でお伝えしたように、腰痛の9割以上は画像検査では原因の分からない「非特異的腰痛」です。しかし残り1割弱には、見逃してはいけない腰痛が含まれます。その代表が、高齢の方の脊椎圧迫骨折(せきついあっぱくこっせつ)です。

結論から言います。 60歳以上の方で、突然始まった腰や背中の痛みが強く、寝返りや起き上がりが困難な場合、まず圧迫骨折を疑ってください。 「湿布で様子を見ましょう」と自己判断するには、リスクの高い病気です。

今回は、ご本人はもちろん、親御さんが腰を痛がっているというご家族にもぜひ読んでいただきたい内容です。


1. 高齢者の「急な腰痛」、まず疑うべきは圧迫骨折

脊椎圧迫骨折は、背骨(椎体)が押しつぶされるように折れる骨折です。 若い人ではほとんど起こりませんが、65歳以上・特に女性では非常に頻度の高い骨折です。

主な原因は骨粗しょう症(骨粗鬆症)。骨の中身がスカスカになっているため、

  • 軽く尻もちをついただけ
  • くしゃみをしただけ
  • 布団を持ち上げただけ
  • 孫を抱っこしただけ

といった大した外力でなくても起こります。これが他の骨折と大きく違うポイントです。

日本では70歳以上の女性の約25%、80歳以上では約40%に、何らかの圧迫骨折の既往があると推計されています。


2. 気づかないうちに起きている”いつのまにか骨折”

実は圧迫骨折の2/3は「気づかれずに」起きると言われています。 「転んでいないのに気づいたら背中が曲がっていた」「身長が数センチ縮んだ」──これが”いつのまにか骨折”の典型像です。

以下に当てはまる方は、すでに起きている可能性があります。

  • ここ数年で身長が4cm以上縮んだ
  • 背中が丸くなってきた(円背)
  • 壁に背中をつけて立つと、後頭部が壁につかない
  • みぞおちが太ももにつくような気がする
  • 最近、呼吸が浅い・食後に胃もたれしやすくなった

これらは圧迫骨折で背骨が少しずつつぶれ、体のバランスが変化しているサインの可能性があります。


3. ぎっくり腰と圧迫骨折の決定的な違い

「ぎっくり腰かな?」と思っていたら実は圧迫骨折だった、という例は日常的によくあります。見分けるポイントを整理します。

ぎっくり腰(非特異的腰痛)圧迫骨折
年齢どの年代でも主に60歳以上
痛みの性質動かすと痛い、じっとしていれば楽寝返り・起き上がりでズキッと激痛
安静時の痛み軽度横になっていてもズンと重い
背中を叩くとあまり響かない叩打痛(こうだつう)あり
回復数日〜2週間で軽快動かすと痛みが続き、悪化することも
身長変わらない縮むことがある

特に重要なのは「寝返り・起き上がりで激痛」。これは骨折している骨にズレが生じるためで、非特異的腰痛ではあまり見られない特徴です。 「起き上がれないほど痛い」場合は、自己判断せず整形外科を受診してください


4. 放っておくとどうなる? 圧迫骨折の恐い連鎖

圧迫骨折を放置すると、以下のような連鎖が起こる可能性があります。

① 二次骨折(ドミノ骨折)

一度背骨が1個折れると、次の1年以内に別の椎体が折れるリスクが5倍に跳ね上がります。これを二次骨折と呼びます。

② 円背(背中の曲がり)の進行

つぶれた椎体を庇うように姿勢が崩れ、重度の円背になると、

  • 呼吸機能が低下(肺活量が減る)
  • 胃食道逆流症(GERD)が悪化
  • 見た目の変化で外出機会が減る
  • 歩行バランスが崩れ、転倒しやすくなる

③ 要介護・寝たきりリスクの上昇

圧迫骨折のある高齢者は、5年以内の死亡リスクが約2倍との報告もあります。腰痛そのものより、動かなくなることの影響が大きいのです。

だからこそ、早期診断・早期治療が何より重要です。


5. 病院でする検査と治療の流れ

整形外科を受診すると、まず行うのはレントゲン検査。ただし、新しい骨折は初期にレントゲンで写らないこともあります。その場合はMRIで”骨の中のむくみ(骨髄浮腫)”を確認して診断します。

主な治療

  • 保存療法(多くの場合これで治ります)
  • 短期の安静+硬めのコルセット装着
  • 鎮痛薬(NSAIDs・アセトアミノフェン等)
  • 早期離床・早期リハビリ(寝たきり予防)
  • 骨粗しょう症の治療開始
  • ビスホスホネート、デノスマブ、テリパラチド、ロモソズマブなど
  • 骨折を起こした時点で即座に開始するのが現在の推奨
  • 手術療法(一部の症例)
  • 椎体形成術(BKP:骨セメントを注入する低侵襲手術)
  • 保存療法で痛みが強く残る場合や、骨折の形が不安定な場合に検討

安静=ずっと寝ている、ではありません。「痛みの範囲内で早く動き始める」のが現代治療の原則です。


6. 家族・ご本人ができる再発予防

圧迫骨折は一度起きたら終わり、ではなく「次を起こさない」ための治療が何より大切です。

① 骨粗しょう症治療を継続する

途中でやめる方が非常に多いのですが、最低でも3〜5年は継続が推奨されます。

② カルシウムとビタミンD

  • 牛乳・小魚・小松菜・大豆製品でカルシウムを
  • 日光浴(1日15分)と鮭・きのこ類でビタミンDを

③ タンパク質をしっかり

高齢者は不足しがち。体重1kgあたり1.0〜1.2gが目安です(体重50kgなら50〜60g/日)。

④ 転ばない環境づくり

  • 家の段差・敷物のズレを見直す
  • トイレ・浴室に手すり
  • 靴下ではなく滑り止め付き室内履き
  • 暗い廊下にフットライト

⑤ 筋トレとバランス運動

  • 椅子からの立ち座り10回×2セット
  • 片脚立ち30秒(壁に手を添えて)
  • 太極拳やスロースクワット

7. まとめ

  • 60歳以上の急な腰痛は、まず圧迫骨折を疑う
  • 軽い動作でも起こる。寝返り・起き上がりでの激痛が典型
  • 背中が曲がった・身長が縮んだは”いつのまにか骨折”のサイン
  • 放置すると二次骨折・円背・寝たきりの連鎖に
  • 治療は保存療法+骨粗しょう症治療。早期離床が鍵
  • 再発予防はカルシウム・ビタミンD・タンパク質・転倒予防・筋トレ

圧迫骨折は「年のせい」ではなく、治療できる病気です。ご家族が腰を痛がっていたら、ぜひ早めに整形外科へ。


よくある質問

Q1. 転んだ覚えがないのに骨折なんてあるのですか?

回答: はい、高齢者の圧迫骨折の約2/3は、本人が転倒を自覚していないケースです。くしゃみ・重い荷物・孫を抱き上げた、などの日常動作で折れることが珍しくありません。「転んでいないから骨折ではない」とは言い切れません。

Q2. コルセットはずっとつけないといけませんか?

回答: 一般的には発症から2〜3ヶ月を目安に装着します。長期に着け続けると筋力が落ちるので、痛みが落ち着いた段階で医師と相談しながら外していきます。同時にリハビリで筋力を戻すのが理想です。

Q3. 骨粗しょう症の薬は一度始めたら一生飲み続けるの?

回答: 薬の種類や骨密度の改善具合によって、3〜5年で見直し・休薬を検討することがあります。自己判断での中止は再骨折リスクを高めるので、必ず主治医と相談してください。

Q4. 痛みが強い時期、お風呂に入ってもいいですか?

回答: 発症直後で痛みが強い時期は、数日はシャワーのみが無難です。湯船につかると立ち上がりで激痛が走ることがあります。痛みが落ち着いたら、ぬるめ(38〜40度)の短時間入浴から再開しましょう。

Q5. 家族が「年だから仕方ない」と言って受診したがりません。

回答: 圧迫骨折は早く診断して早く動き始めるほど予後が良くなります。「年のせい」で放置すると寝たきりリスクが上がります。「検査だけでも受けよう」と声をかけ、整形外科に同行してあげるのがベストです。


監修:Dr.T

参考文献: 1. Hartvigsen J, et al. What low back pain is and why we need to pay attention. The Lancet. 2018;391:2356-67. 2. 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版. 日本骨粗鬆症学会. 3. GBD 2021 Low Back Pain Collaborators. The Lancet Rheumatology. 2023;5:e316–e329.

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