この記事をスマホで読む
目次
- サルコペニアとは?
- なぜ70代で筋力低下が加速するのか
- 自宅でできる筋力キープのセルフケア
- ご家族ができるサポート
- こんな症状があれば受診を
- まとめ
「最近、ペットボトルのフタが開けにくい」「歩くスピードが落ちた気がする」――そんな小さな変化、見逃していませんか?
70代になると、筋肉量は30代のころと比べて約30%も減っていることがあります。この筋肉の減少が進んだ状態を「サルコペニア」と呼びます。聞き慣れない言葉かもしれませんが、実は転倒や寝たきりのリスクに直結する、とても大切なテーマです。
この記事では、70代のご本人はもちろん、ご家族の方にも役立つ「筋力を守るための毎日の習慣」をわかりやすくお伝えします。
1. サルコペニアとは?
サルコペニアとは、加齢によって筋肉の量や質が低下し、からだの機能が落ちてしまう状態のことです。ギリシャ語で「筋肉」を意味する「サルコ」と「喪失」を意味する「ペニア」を組み合わせた医学用語で、2016年にはWHO(世界保健機関)の国際疾病分類にも正式に登録されました。
特徴的なサインとしては、握力が弱くなる、椅子から立ち上がるのに時間がかかる、歩く速度が遅くなる、といった変化があります。「年だから仕方ない」と思いがちですが、放っておくと転倒や骨折、さらには要介護状態につながることもあります。
2. なぜ70代で筋力低下が加速するのか
筋肉は、使わなければどんどん衰えていきます。70代になると、以下のような要因が重なって筋力低下が加速しやすくなります。
活動量の減少: 退職や体力の変化から外出の機会が減り、歩く距離や動く時間が短くなります。特にコロナ禍以降、自宅にこもりがちになった方も多いのではないでしょうか。
たんぱく質の摂取不足: 食が細くなったり、あっさりしたものを好むようになると、筋肉の材料であるたんぱく質が不足しがちです。日本人の高齢者の多くが1日に必要なたんぱく質量を摂れていないという調査結果もあります。
ホルモンの変化: 加齢に伴い、筋肉の合成を助ける成長ホルモンやテストステロンの分泌量が減少します。これにより、同じ運動をしても筋肉がつきにくくなります。
慢性的な病気の影響: 糖尿病や心臓病、関節の痛みなどがあると、活動が制限されて筋肉がさらに衰えやすくなります。
3. 自宅でできる筋力キープのセルフケア
サルコペニアの予防で何より大切なのは、「運動」と「栄養」の両輪を回すことです。特別な器具や施設は必要ありません。毎日の生活に少しずつ取り入れてみましょう。
運動のポイント
スクワット(椅子スクワット): 椅子の前に立ち、ゆっくりお尻を下ろして座り、また立ち上がる動作を繰り返します。1日10回×2セットが目安です。膝に不安がある方は、テーブルや壁に手をつきながら行ってください。
かかと上げ: 立った状態でかかとを上げ、つま先立ちになり、ゆっくり下ろします。ふくらはぎの筋肉を鍛えることで、歩行の安定性が増します。10回×2セットを目安にしましょう。
もも上げ: 椅子に座った状態で、片脚ずつ太ももを持ち上げます。腸腰筋(ちょうようきん)という、歩くときに足を前に出すために必要な筋肉を鍛えられます。
毎日の散歩: 1日20〜30分のウォーキングが理想的です。無理のない範囲で、まずは10分からでも構いません。「歩くこと」自体が最高の筋力トレーニングです。
栄養のポイント
毎食たんぱく質を意識する: 肉、魚、卵、豆腐、乳製品など、たんぱく質を含む食品を毎食1品以上取り入れましょう。70代では体重1kgあたり1.0〜1.2gのたんぱく質が推奨されています。体重60kgの方なら60〜72gが目安です。
朝食を抜かない: 筋肉の合成は食事のたびに起こります。朝食を抜くと筋肉が分解される時間が長くなってしまうため、軽くてもよいので朝食をとる習慣を大切にしてください。
ビタミンDも忘れずに: ビタミンDは筋肉の機能維持に不可欠な栄養素です。日光を浴びることで体内で作られますが、外出が少ない方は鮭やきのこ類など、ビタミンDを多く含む食品を意識的に摂りましょう。
4. ご家族ができるサポート
70代のご家族のサルコペニア予防を支えるために、ご家族の方にもできることがあります。
一緒に歩く時間をつくる: 「散歩に付き合って」と言われなくても、買い物や通院のときに一緒に歩く機会を意識的に作ってみてください。一人だと面倒に感じる外出も、誰かと一緒なら楽しく続けやすくなります。
食事の変化に気づく: 「最近あまり食べていないな」「肉や魚を避けているな」と感じたら、たんぱく質が不足しているサインかもしれません。食べやすい形に調理を工夫するなど、さりげないサポートが役立ちます。
握力や歩くスピードを観察する: ペットボトルのフタが開けにくくなった、横断歩道を渡りきれなくなったなど、具体的な変化に気づいたら、かかりつけ医への相談を勧めてみてください。
5. こんな症状があれば受診を
以下のような症状が見られる場合は、サルコペニアが進行している可能性があります。整形外科やかかりつけ医を受診しましょう。
- 椅子から立ち上がるのに手の支えが必要になった
- 歩く速度が明らかに遅くなった(横断歩道を青信号で渡りきれない)
- 握力が著しく低下した(男性28kg未満、女性18kg未満が目安)
- 半年で体重が2〜3kg以上減った(意図していないのに)
- つまずきや転倒が増えた
医療機関では、握力測定や歩行速度の計測、必要に応じて筋肉量の検査(DXA法やBIA法)を行い、サルコペニアの有無や程度を評価してもらえます。
6. まとめ
サルコペニアは「年だから仕方ない」で済ませてよい問題ではありません。しかし、70代からでも正しい運動と栄養の習慣を続ければ、筋力の低下を防ぎ、元気に暮らし続けることは十分に可能です。
大切なのは、完璧を目指すことではなく、今日からできる小さな一歩を始めること。椅子スクワットを5回やってみる、朝食に卵を1つ足してみる。それだけでも、からだは確実に応えてくれます。
ご本人はもちろん、ご家族の方も一緒に取り組むことで、70代をもっと楽しく、もっと元気に過ごしていきましょう。
よくある質問
Q1. サルコペニアは治りますか?
回答: サルコペニアは適切な運動とたんぱく質を中心とした栄養改善によって、改善が期待できます。特に軽度の段階で対策を始めれば、筋力や歩行速度の回復が見込まれます。「もう歳だから」とあきらめず、まずはかかりつけ医に相談してみてください。
Q2. 筋トレは膝や腰が痛くてもできますか?
回答: 痛みがある場合でも、椅子に座ったままできる運動や、水中での運動など、関節に負担をかけにくい方法があります。痛みの程度に応じて安全にできる運動を、整形外科やリハビリの専門家に相談してから始めると安心です。
Q3. プロテインを飲んだほうがよいですか?
回答: 食事だけで十分なたんぱく質がとれない場合は、プロテイン飲料の活用も選択肢のひとつです。ただし、腎臓の機能が低下している方は摂取量に注意が必要ですので、かかりつけ医に相談してから始めましょう。
合わせて読みたい




監修:Dr.T
参考文献:
- Chen LK, et al. Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 Consensus Update. J Am Med Dir Assoc. 2020;21(3):300-307.
- 日本サルコペニア・フレイル学会「サルコペニア診療ガイドライン2017年版(一部改訂)」
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」



コメント