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目次
- 転倒が怖い本当の理由
- なぜ60代からバランス能力が低下するのか
- 自宅でできるバランストレーニング
- 転倒しにくい環境づくり
- こんなサインがあれば受診を
- 予防のポイントまとめ
「つまずきやすくなった」「ちょっとよろけてヒヤッとした」――そんな経験はありませんか? 60代は転倒リスクが急に高まる年代です。
転倒は「ただ転んだだけ」では済まないことがあります。大腿骨頸部骨折(だいたいこつけいぶこっせつ)をきっかけに寝たきりになるケースは少なくありません。でも、バランス能力は何歳からでもトレーニングで改善できます。今日から始められる習慣で、転ばない体をつくりましょう。
転倒が怖い本当の理由
日本では65歳以上の約3人に1人が年間に1回以上転倒するとされています。そして転倒が引き起こす骨折の中でも特に深刻なのが、太ももの付け根(大腿骨頸部)の骨折です。
大腿骨頸部骨折を起こすと多くの場合は手術が必要になり、入院期間は数週間から数か月に及びます。リハビリを経ても、受傷前の活動レベルに戻れるのは約半数程度というデータもあります。つまり、1回の転倒が生活の質を大きく変えてしまう可能性があるのです。
さらに、一度転倒を経験すると「また転ぶかもしれない」という恐怖心から外出を控えるようになり、活動量が減ってさらに筋力やバランス能力が低下するという悪循環に陥りやすくなります。
なぜ60代からバランス能力が低下するのか
バランスを保つためには、視覚・前庭覚(三半規管)・体性感覚(足裏の感覚など)の3つのセンサーが連携して働いています。60代以降、これらすべてが少しずつ衰えていきます。
視覚の変化として、老眼や白内障の進行で段差や障害物を見落としやすくなります。特に暗い場所での視力低下は転倒リスクを高めます。
前庭覚の低下では、三半規管の機能が衰えることで、頭の位置や体の傾きを感知する能力が鈍くなります。急に振り向いたときにふらつくのはこのためです。
体性感覚の鈍化として、足裏の感覚が鈍くなると、地面の凹凸や傾斜を正確に感じ取れなくなります。また、筋力低下が加わると、バランスを崩したときに素早く体勢を立て直す「リカバリー反応」が遅れます。
これらの変化は誰にでも起きますが、日々のトレーニングで低下のスピードを緩やかにすることが可能です。
自宅でできるバランストレーニング
バランス能力を鍛える運動は、特別な器具がなくても自宅で安全にできます。転倒が心配な方は、壁や椅子の背に手をつきながら行ってください。
片足立ちはバランストレーニングの基本です。椅子や壁に軽く手を添えて、片足で立ちます。目標は左右それぞれ30秒。慣れてきたら手を離してみましょう。1日3回、朝昼晩に行うのがおすすめです。歯磨きの時間を片足立ちタイムにすると習慣化しやすくなります。
タンデム歩行(つぎ足歩行)は、一直線上をかかととつま先をつけるように歩く運動です。廊下で壁に手を添えながら10歩×3往復。綱渡りのようなイメージで、体幹と足首のバランス感覚を同時に鍛えられます。
ステップ練習も効果的です。立った状態から前後左右にステップを踏む練習をします。前に一歩、元に戻る。右に一歩、元に戻る。左、後ろも同様に。各方向5回ずつ。バランスを崩しかけたときに素早く足を出す「リカバリーステップ」の能力を鍛えます。
つま先立ち〜かかと立ちの交互運動は、足首周りの筋力とバランスを同時に鍛えます。椅子の背に手をついて、つま先立ちで3秒→かかと立ちで3秒を交互に10回。ふくらはぎとすねの筋肉が刺激されます。
転倒しにくい環境づくり
バランス能力を鍛えると同時に、生活環境の見直しも重要な転倒予防策です。
室内の照明を見直しましょう。夜間のトイレは転倒が最も起きやすい場面です。廊下やトイレに足元灯(フットライト)をつけるだけで転倒リスクが大幅に下がります。
つまずきやすいものを片づけましょう。電気コード、新聞・雑誌の束、小さなラグや敷物の端は、つまずきの原因になります。敷物は両面テープで固定するか、撤去するのがおすすめです。
浴室と階段には手すりの設置を検討してください。介護保険の住宅改修費支給制度を使えば、要支援・要介護認定を受けている方は最大20万円まで費用の9割が補助されます。
履き物にも注意を。室内でスリッパを履いている方は多いですが、スリッパはつまずきやすく脱げやすいため転倒リスクが高くなります。かかとがしっかりホールドされる室内履きに替えると安心です。
こんなサインがあれば受診を
以下のような変化がある場合は、かかりつけ医や整形外科への相談をおすすめします。
過去1年間に2回以上転倒した、立ち上がるときにふらつく、めまいを頻繁に感じる、足がつりやすい・しびれがある、服用している薬が5種類以上ある(多剤服用による副作用の可能性)。
特に複数の薬を服用している方は、薬の相互作用でふらつきが起きている場合があります。主治医や薬剤師に一度確認してもらうことが大切です。
予防のポイントまとめ
転倒予防は「体づくり」と「環境づくり」の両面から取り組むことが大切です。片足立ちやタンデム歩行でバランス能力を維持し、自宅の照明・段差・履き物を見直して転びにくい環境を整えましょう。
転倒は「注意していれば防げる」ものではなく、「体と環境を整えて予防する」ものです。今日から片足立ち30秒、始めてみませんか。
よくある質問
Q1. 片足立ちが10秒もできません。大丈夫ですか?
回答: 10秒未満の場合は、バランス能力がやや低下しているサインです。ただし最初からできなくても問題ありません。壁や椅子に手をつきながら練習を続けることで確実に伸びていきます。まずは5秒から始めて、少しずつ秒数を延ばしていきましょう。
Q2. 転倒予防に杖を使ったほうがいいですか?
回答: ふらつきが気になる方は、外出時に杖を使うことで安全性が高まります。ただし杖は「使わないほうがよい」のではなく、「必要なときに正しく使う」ことが大切です。杖の高さが合っていないと逆に転倒リスクが上がるため、整形外科やリハビリスタッフに適切な杖の選び方を相談してみてください。
Q3. ヨガやタイチ(太極拳)は転倒予防に効果がありますか?
回答: はい、特に太極拳は転倒予防に対する科学的根拠が豊富です。ゆっくりとした動きの中でバランスと筋力を同時に鍛えられるため、高齢者の転倒リスクを約20〜40%低減させるという研究報告があります。地域の教室などで始めてみるのもおすすめです。
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監修:Dr.T 参考文献:
- Gillespie LD et al. “Interventions for preventing falls in older people living in the community.” Cochrane Database Syst Rev. 2012
- 日本整形外科学会「ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイト」
- 厚生労働省「介護予防マニュアル(改訂版)」



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