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目次
- 腰部脊柱管狭窄症とは
- まず知ってほしい「脊柱管」のしくみ
- なぜ脊柱管は狭くなるのか ── 3つの原因
- 神経が圧迫されるとどうなる?
- 「加齢だから仕方ない」は本当?
- まとめ ── シリーズ次回予告
- よくある質問
「最近、歩いていると足がしびれて立ち止まってしまう」「腰から太ももにかけて、なんとなく重だるい」──そんな経験はありませんか?
もしかすると、それは腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)のサインかもしれません。名前を聞いただけで難しそうに感じるかもしれませんが、しくみを知ると「なるほど、そういうことか」と納得できるはずです。
この記事は全3回シリーズの第1回。今回は「腰の中でいったい何が起きているのか」──つまり病態メカニズムをやさしく解説します。
1. 腰部脊柱管狭窄症とは
腰部脊柱管狭窄症とは、ひとことで言うと「腰の背骨の中にある神経の通り道が狭くなって、神経が圧迫される病気」です。
50代以降に多く見られ、日本では推定約580万人が罹患しているとされています(日本整形外科学会のデータ)。「年をとれば誰にでも起こりうる変化」がベースにあるため、決してめずらしい病気ではありません。
ただし、狭くなっているからといって全員に症状が出るわけではありません。狭窄の程度と神経への圧迫の仕方によって、症状の出方は人それぞれです。

2. まず知ってほしい「脊柱管」のしくみ
背骨は「骨のトンネル」を持っている
背骨(脊椎)は、24個の椎骨が積み木のように重なってできています。それぞれの椎骨には穴が開いていて、上から下まで骨がつながると1本のトンネルができます。これが脊柱管(せきちゅうかん)です。
この脊柱管の中を、脳から続く太い神経の束──脊髄(せきずい)と、そこから枝分かれする馬尾神経(ばびしんけい)が通っています。
腰の部分はとくに特殊
じつは、脊髄そのものは腰椎の1〜2番目あたりで終わっています。それよりも下の腰椎部分では、馬尾(ばび)と呼ばれるたくさんの神経の束がバラバラに走っています。馬のしっぽのような見た目から、この名前がつきました。
腰部脊柱管狭窄症で圧迫を受けるのは、おもにこの馬尾神経です。足の感覚や動き、さらには膀胱や直腸の働きにも関わる大切な神経です。
トンネルを支える3つの構造
脊柱管というトンネルは、以下の3つの構造に囲まれています。
- 前側(おなか側):椎体(ついたい)と椎間板(ついかんばん)
- 後ろ側(背中側):椎弓(ついきゅう)と黄色靱帯(おうしょくじんたい)
- 横側:椎間関節(ついかんかんせつ)
これら3つのうち、どれかが変形したり厚くなったりすると、トンネルの内径が狭くなり、中を通る神経が圧迫されます。
3. なぜ脊柱管は狭くなるのか ── 3つの原因
脊柱管が狭くなる原因は、ひとつではありません。多くの場合、複数の要因が重なって狭窄が進みます。
原因① 椎間板のふくらみ
椎間板は、椎骨と椎骨のあいだにあるクッションのような組織です。中心にやわらかいゼリー状の「髄核(ずいかく)」があり、周囲を「線維輪(せんいりん)」が取り囲んでいます。
加齢とともに椎間板は水分を失い、弾力が低下します。すると椎間板が後方へふくらみ、脊柱管を前側から圧迫します。椎間板ヘルニアほど急激ではありませんが、じわじわと狭窄を進行させる要因です。
原因② 黄色靱帯の肥厚
黄色靱帯は、椎弓の内側を覆うように張られた靱帯で、背骨の動きをサポートしています。名前のとおり黄色っぽい色をしていて、通常は薄くしなやかです。
ところが、年齢を重ねたり腰に負担がかかり続けたりすると、この靱帯が厚く硬くなります。これを肥厚(ひこう)といいます。肥厚した黄色靱帯が脊柱管を後ろ側からぐっと押し狭めます。これが狭窄の最も多い原因のひとつです。
原因③ 椎間関節の変形(骨棘の形成)
椎間関節は、背骨の左右にある小さな関節です。長年の負荷によって関節の軟骨がすり減ると、骨が新しく増殖して骨棘(こつきょく)と呼ばれる出っぱりができます。
骨棘が脊柱管やその脇の神経の通り道(椎間孔)に突き出すと、横から神経を圧迫します。
3つが重なると…
これら3つの変化が同時に起こると、脊柱管は前・後ろ・横の三方向から狭められます。もともと余裕のあったトンネルが、少しずつ「せまいトンネル」に変わっていくわけです。
4. 神経が圧迫されるとどうなる?
狭くなった脊柱管の中で神経が圧迫されると、大きく分けて3つのタイプの症状が現れます(詳しくはシリーズ第2回で解説します)。
馬尾型(ばびがた)
脊柱管の中央を通る馬尾神経が広く圧迫されるタイプです。両足のしびれ、歩行時の足の脱力感、さらには排尿障害などが出ることがあります。
神経根型(しんけいこんがた)
脊柱管から左右に枝分かれする神経根(しんけいこん)が、出口付近で圧迫されるタイプです。片足だけに痛みやしびれが出ることが多く、坐骨神経痛のような症状として感じられます。
混合型
馬尾型と神経根型の両方の症状が混在するタイプです。実際にはこの混合型が最も多いとされています。
5. 「加齢だから仕方ない」は本当?
「年をとったら腰が痛くなるのは当たり前」──たしかに、脊柱管が狭くなること自体は加齢に伴う自然な変化です。しかし、だからといって「何もできない」わけではありません。
たとえば、以下のような要因は狭窄の進行や症状の悪化に関わることがわかっています。
- 姿勢の問題:腰を反らせる姿勢(反り腰)は脊柱管をさらに狭くします
- 体重増加:腰への負荷が増し、椎間板や椎間関節の変性を早めます
- 運動不足:体幹の筋力低下により、背骨を支える力が弱くなります
- 喫煙:椎間板への血流が低下し、変性を加速するという報告があります
つまり、生活習慣を見直すことで、狭窄の進行を遅らせたり、症状を軽くしたりできる可能性があるのです。具体的なセルフケアについては、シリーズ第3回で詳しくお伝えします。
6. まとめ ── シリーズ次回予告
今回のポイントをおさらいしましょう。
腰部脊柱管狭窄症は、背骨の中にある神経の通り道(脊柱管)が狭くなり、馬尾神経や神経根が圧迫される病気です。おもな原因は、椎間板のふくらみ、黄色靱帯の肥厚、椎間関節の骨棘の3つ。加齢が最大のリスクですが、生活習慣の改善で進行を抑えられる余地もあります。
次回(第2回)では、「歩いていると足がしびれて止まる」──脊柱管狭窄症の代表的な症状「間欠性跛行」のメカニズムや、診断に使われる検査方法についてくわしく解説します。
よくある質問
Q1. 腰部脊柱管狭窄症と腰椎椎間板ヘルニアは同じ病気ですか?
回答: 別の病気ですが、原因の一部が共通しています。ヘルニアは椎間板の中身が急に飛び出して神経を圧迫するもので、比較的若い年代にも多く見られます。一方、脊柱管狭窄症は椎間板の膨隆・靱帯の肥厚・骨棘など複数の要因がゆっくり重なって狭窄が進むもので、50代以降に多い病気です。もちろん、ヘルニアと狭窄が同時に存在することもあります。
Q2. MRI検査で「狭窄がある」と言われましたが、症状がありません。治療は必要ですか?
回答: 画像上の狭窄と症状は必ずしも一致しません。MRIで狭窄が確認されても、症状がまったくない方は大勢います。症状がなければ、すぐに治療を急ぐ必要はないのが一般的です。ただし、今後症状が出てくる可能性はあるため、姿勢や運動習慣を整えておくことは大切です。
Q3. 脊柱管狭窄症は遺伝しますか?
回答: 脊柱管狭窄症そのものが直接遺伝する病気ではありませんが、もともと脊柱管の径が小さい体質(先天性狭窄)は遺伝的な要素があるとされています。生まれつき脊柱管が狭い方は、加齢変化が加わったときに症状が出やすくなる傾向があります。
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監修:Dr.T
参考文献:
- 日本整形外科学会「腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン2021」
- Katz JN, et al. Lumbar Spinal Stenosis. N Engl J Med. 2008;358(8):818-825.
- Kalichman L, et al. Spinal stenosis prevalence and association with symptoms: the Framingham Study. Spine J. 2009;9(7):545-550.



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