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シリーズ「腰椎椎間板ヘルニアを正しく知ろう」
第1回:病態編|第2回:症状編|第3回:治療編(この記事)
1. 治療の基本方針──まずは「手術しない治療」から
シリーズ第1回でお伝えしたように、腰椎椎間板ヘルニアの多くは自然に吸収される可能性があります。そのため、治療の基本方針はまず保存療法(手術をしない治療)から始めることです。
実際に、ヘルニアと診断された方の約70〜80%は、保存療法で症状が改善します。「ヘルニア=手術」というイメージを持っている方は多いかもしれませんが、手術が必要になるのは全体の一部です。
ただし、前回お伝えした「レッドフラッグ」──足の筋力低下や膀胱直腸障害がある場合は、保存療法を待たずに早期の手術が必要です。
2. 保存療法の種類と効果
薬物療法
痛みを和らげるための薬が中心です。消炎鎮痛薬(NSAIDs)で炎症と痛みを抑え、神経の痛みに対しては神経障害性疼痛治療薬を使います。筋肉の緊張が強い場合は筋弛緩薬も併用します。痛みが非常に強い急性期には、短期間のステロイド薬を使用することもあります。
神経ブロック注射
薬で十分に痛みが取れない場合、神経ブロック注射が効果的です。痛みの原因となっている神経やその周辺に、局所麻酔薬とステロイドを直接注射します。代表的なものとして、硬膜外ブロック(脊柱管の外側に注射)や神経根ブロック(圧迫されている神経の根元にピンポイントで注射)があります。
理学療法(リハビリテーション)
急性期の激しい痛みが落ち着いてきたら、理学療法を開始します。理学療法士の指導のもと、体幹の筋力を強化するエクササイズや、硬くなった筋肉のストレッチを行います。
特に大切なのは、腰を反らす方向の運動(マッケンジー法)です。ヘルニアは前かがみで悪化しやすいため、逆に腰を反らす動作で髄核を前方に押し戻す効果が期待できます。ただし、すべての方に合う方法ではないため、必ず専門家の指導のもとで行ってください。
安静とコルセット
強い痛みのある急性期は、無理をせず安静にすることも大切です。ただし、長すぎる安静は逆効果です。痛みの範囲で日常生活を続けることが、回復を早めるとされています。コルセットは急性期に腰を安定させる目的で一時的に使いますが、長期間の使用は筋力低下を招くため注意が必要です。
3. 手術が必要になるケース
保存療法を2〜3か月続けても改善しない場合、足の筋力低下が進行している場合、膀胱直腸障害がある場合(48時間以内の緊急手術が推奨)、痛みで仕事や生活に大きな支障がある場合──こうした状況では手術を検討します。
4. 手術の方法──どんな手術があるの?
ラブ法(後方椎間板切除術)
もっとも歴史があり、確実性の高い方法です。背中側から小さく皮膚を切開し、飛び出したヘルニアを取り除きます。手術時間は約1時間、入院期間は約1〜2週間が目安です。
内視鏡下手術(MED / FED)
小さな切開(約1.5〜2cm)から内視鏡を入れて、モニターを見ながらヘルニアを摘出します。体への負担が少なく、入院期間が短い(約4〜7日)のが利点です。最近ではFED(完全内視鏡下手術)という、さらに小さな傷(約8mm)で行える方法も普及しています。
椎間板内酵素注入療法(コンドリアーゼ)
2018年に日本で承認された比較的新しい治療法です。椎間板の中にコンドリアーゼという酵素を注射し、髄核の水分を減少させることでヘルニアを小さくします。切開が不要で日帰り〜1泊入院で行えます。当院は日本脊椎脊髄病学会認定施設として、この治療を実施できる施設の一つです。
5. 術後のリハビリと日常生活
手術後は、多くの場合翌日から歩行が可能です。入院中から理学療法士のもとでリハビリを開始し、体幹の筋力回復と正しい動作の習得を目指します。デスクワークは約2〜4週間で復帰できる方が多く、力仕事やスポーツへの完全復帰は2〜3か月を見ていただくのが一般的です。
6. 再発を防ぐために──セルフケアのポイント
ヘルニアの再発率は約5〜15%とされています。日常的なケアが再発予防のカギです。
体幹を鍛える習慣をつける:お腹まわりのインナーマッスル(腹横筋、多裂筋)を鍛えることで、背骨を内側から安定させます。プランクやドローインなどの軽い運動を毎日続けるのが効果的です。
正しい姿勢を意識する:長時間の座り仕事では、1時間ごとに立ち上がってストレッチをしましょう。椅子に座るときは、腰の後ろにクッションを入れて自然なカーブ(前弯)を保つのがポイントです。
物の持ち上げ方に注意する:重いものを持つときは、膝を曲げてしゃがんでから持ち上げる「スクワット式」を心がけてください。
適正体重を維持する:体重が増えると、腰の椎間板にかかる負荷も比例して大きくなります。
禁煙する:喫煙は椎間板への血流を妨げ、修復力を低下させます。再発予防の観点からも、禁煙は非常に重要です。
7. まとめ
腰椎椎間板ヘルニアの治療は、まず保存療法(薬物・ブロック注射・リハビリ)から始め、約70〜80%の方はこれで改善します。保存療法で改善しない場合や、筋力低下・膀胱直腸障害がある場合は手術を検討します。
手術法も内視鏡下手術や酵素注入療法など、体への負担が少ない方法が増えています。そして治療後は、体幹トレーニング・姿勢改善・禁煙などの日常的なセルフケアが再発予防のカギとなります。
このシリーズを通じて、腰椎椎間板ヘルニアという病気の全体像を理解していただけたでしょうか。大切なのは、正しい知識を持ち、適切なタイミングで専門医に相談することです。
よくある質問
Q1. 手術をすれば100%治りますか?
回答:手術の成功率は約85〜95%と高く、多くの方で脚の痛み・しびれが大幅に改善します。ただし、一部の方では症状が完全には消えなかったり、しびれが少し残ったりすることもあります。また、約5〜15%の確率で再発の可能性があります。
Q2. コルセットはずっとつけたほうがいいですか?
回答:いいえ、コルセットの長期使用はおすすめしません。急性期の痛みが強いときに一時的に使うのは有効ですが、長期間使い続けると体幹の筋力が低下し、かえって腰を傷めやすくなります。痛みが落ち着いてきたら、徐々に外す時間を増やしていきましょう。
Q3. ヘルニアの手術後、どのくらいでスポーツに復帰できますか?
回答:手術方法や個人の回復状況によりますが、ウォーキングやプールでの軽い運動は術後1か月頃から、ジョギングやゴルフなどは2〜3か月頃から再開できる方が多いです。コンタクトスポーツは3〜6か月の経過を見てからの判断になります。
監修:Dr.T(整形外科専門医・脊椎外科)
参考文献:
1. 日本整形外科学会「腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン 2021」
2. Weinstein JN, et al. Surgical vs nonoperative treatment for lumbar disk herniation: the Spine Patient Outcomes Research Trial (SPORT). JAMA. 2006;296(20):2441-2450.
3. 日本脊椎脊髄病学会「椎間板内酵素注入療法について」



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